この記事は、こんなあなたに向けて書いています。
肘の痛みと何ヶ月も付き合っている。病院でも接骨院でも「安静にしてください」と言われた。痛み止めを飲んだ。シップを貼った。でも、投げようとすると痛い。もう「この肘はずっとこのままなんじゃないか」と思い始めている――そんなあなたへ。
「野球肘」という言葉を、私たちはあまり使いません
肩の記事でも書きましたが、あえて同じ書き方をします。
いきなり、少しだけ厳しいことを言います。
もしあなたが今まで通ってきた医療機関や治療院で、あなたの肘を診るなり「あー、野球肘ですね」と言われたなら――正直に言って、その相手は、野球選手の肘に本気で向き合ったことがない可能性が高いです。
それぐらい、この業界は「俗称で片づける」という悪癖から逃げられていない。いや、逃げられていないのではなく、そこまで本気でこの問題に向き合っていない先生が多いのかもしれません。
なぜなら「野球肘」というのは、野球選手の肘が痛くなった状態をひとまとめにした俗称にすぎないからです。その中身は、全く別の構造で、全く別の扱いが必要なのにも関わらず。
野球肘には、複数の「顔」がある
「野球肘」と一言で言っても、内実は大きく異なります。
外側型(肘の外側の問題)
- 代表例:離断性骨軟骨炎(OCD)、滑膜ヒダ障害
- 手のひらを上にした時に、肘の親指側が痛い
- 最も危険な型。後述
内側型(肘の内側の問題)
- 代表例:内側上顆炎、裂離骨折、内側側副靱帯損傷
- 手のひらを上にした時に、肘の小指側がじんじんと痛む
- 発達段階で、頻度と内容が大きく変わる
後方型(肘の後ろ側の問題)
- 代表例:肘頭疲労骨折、肘頭窩インピンジメント症候群
- 肘の後ろが詰まったような、引っかかったような痛み
神経系の問題
- 代表例:胸郭出口症候群などによる尺骨神経や正中神経の問題
- 肘というより腕全体に放散する痛みやしびれ
- 見落とされることが多い
これらは「ひとまとめに野球肘」と呼ばれていますが、やるべき対応も、治るまでの道のりも、キャリアに与える影響も――全く異なります。
原因が違えば、どのくらい投げていいか、いつ復帰できるか、放置したらどうなるか、すべてが変わるはずなのに。それを「野球肘ですね」の一言で片づけて、全員に同じストレッチを教え、同じ電気を当て、同じように「2週間投げないでください」と言う。
これこそが、あなたの肘が治らない最大の理由です。
「小中学生の肘」と「高校生以上の肘」は、全く別物
ここから、肩の記事には書かなかった、野球肘ならではの話をします。
野球選手の肘が痛くなる原因は、年齢によって決定的に変わります。 なぜなら、骨の成熟度が違うからです。
小中学生(骨端線閉鎖前):骨が未成熟
小中学生の骨には、成長線(骨端線)があります。ここはまだ軟骨なので、成人の骨よりも圧倒的に壊れやすい。だから、野球をやっている小中学生の肘が痛くなるとき、最も多いのは「骨」の問題です。
その中で最も多いのが、内側上顆の問題ですが、私たちが最も警戒するのが、**離断性骨軟骨炎(OCD)**です。
小中学生の最大脅威:離断性骨軟骨炎
この病名を聞いたことがない親御さんも多いと思います。ですが、野球をやる子どもにとって、これは本当に怖い病気です。
なぜ怖いのか
それは、痛みや目立った症状がないのに、内部で着々と進行するからです。
OCDが起こると、肘の外側(上腕骨小頭)の軟骨が崩れ始めます。初期段階では、子ども本人も気づかない。「肘がちょっと違和感かな」くらい。痛みがあっても、試合前だけ、という段階があります。
だから、多くの親御さんは気づかない。学校の検診でも「問題なし」とされることもある。医師が触診や簡単な検査だけやって「様子を見ましょう」と言ってしまう。
しかし、ここが落とし穴です。
OCDは進行し続けます。骨が崩れて、やがて骨の一部が剥がれ落ちる。そこまで進むと、肘の動きが制限され、急に痛くなります。「あれ、肘が曲がらなくなった」「伸ばすと引っかかる」という状態になる。
この段階になると、もう手術です。そして、手術後も――これが重要なのですが――一生、可動域に制限が残る選手も多い。完全には元には戻らない。競技を続けられたとしても、プロを目指していた選手なら、その夢は絶たれることもあります。あるいは、選手生命を失った子どもたち。投げ方を右から左に変えた選手。
実際、私は何人も見てきました。
OCDはなぜ起こるのか
OCDの原因は、実はまだ解明されていません。ただ、投球によるメカニカルストレスが関係していることは確かで、加えて遺伝的な要素も考えられています。
ともあれ、一度崩れ始めた骨は、放置すれば進行を続けます。
エコーが「救い」になる理由
ここで大事なのが、**エコー(超音波検査)**です。
Plus ONEでエコーを見る理由は、このOCD の超初期段階を見つけるためです。
エコーなら、上腕骨小頭の状態を、リアルタイムで画像で確認できます。痛みがない段階でも、骨の表面に不整がないか、微妙な変化を見逃さない。
OCDを超初期で見つけることができれば、ノースロー期間は数ヶ月で済みます。場合によっては、骨が回復し、ほぼ何もなかったぐらいにまで治ることができます。
逆に、見逃して手術になれば、復帰期間は1年以上。そして、一生の制限が残る。
この差は、本当に大きい。
だから各地で野球肘検診が行われます。Plus ONEも、チームにお伺いして、こうした検診・チェックを行う取り組みをしています。
OCDと別問題:パンナー病
ちなみに、OCDと似ているけど別の病気に、パンナー病があります。こちらも骨端線閉鎖前の選手に起こるもので、見た目の症状は似ていますが、経過は全く異なります。パンナー病なら多くの場合、成長に伴って自然に治ります。
これらを区別することも、診断の重要な要素です。
「高校生以上の肘」:骨から軟部組織へ、ターゲットが変わる
骨端線が閉鎖すると(一般的には高校生以上)、状況が一変します。
骨がほぼ成人と同じ強度になるため、今度は軟部組織(靭帯、腱)と神経系がストレスのターゲットになります。
内側側副靱帯損傷、肘頭の腱炎、胸郭出口症候群による神経絞扼――こうした損傷が起こりやすくなります。特に、投球速度が上がる高校以上では、肘にかかるストレスが急激に増します。140km を超えるような球速になってくると、その負荷は想像以上です。
「今は問題ない」という落とし穴
ここで注意してほしいことがあります。
高校生の中には、「肘が完全に伸びない」「可動域が制限されている」という選手がいます。試合には出ているし、投げられている。だから「まあ、大丈夫か」と、本人も親も医師も、その問題を見過ごしてしまう。
これが、後々大きな落とし穴になります。
可動域が制限されているというのは、単なる「症状」ではなく、肘の構造が既に変わっていることを示しています。子どもの頃、おそらく内側上顆に損傷があったのかもしれません。それが骨の不整として治癒してしまった。だから、完全には伸び縮みしない。
その状態で、さらに上のカテゴリーに進む。大学野球、社会人野球、プロ。あるいは、大人になって草野球をやり始める。そこで、初めて問題が顕在化することは往々にしてあります。
可動域の制限は、肘の安定性を低下させます。すると、内側側副靱帯にかかるストレスが増します。それが、新たな損傷を招く。
言い方を変えれば、「今は問題ない」という状態は、実は**「リスク要因を抱えたままでいる」ということ**なのです。
「グラウンド」にある、本当の原因
さて、ここまで「小中学生はOCD に注意」「高校生以上は軟部組織に注意」という話をしてきました。
ですが、最後にして最も大切なのは、この認識です。
肘が痛くなるのは、肘だけの問題ではありません。
OCDが起こるのも、靭帯が損傷するのも、その根底には投球動作そのものと、全身のバランスがあります。
- 下半身からの力が、肘を通じて正しく伝わっていない
- 肩甲骨の動きが悪く、肘が代償で無理をしている
- 体幹が不安定で、脚の力を活かしきれていない
- 手内筋の力が足りず、指先の制御ができていない
- 指屈筋群が硬いせいで、投球時に肘に不自然な負荷がかかる
- 投げる際の心理的な不安が、肘に余計な力を込めさせている
こうした、グラウンド上の「動きのクセ」や「身体的な問題」が、特定の筋肉や関節に負担を蓄積させます。その結果が、肘の不安定性であり、靭帯や腱の炎症であり、骨端線の損傷であるのです。
原因は、肘から遠く離れた場所に隠れている。 そして、医療機関のベッドの上で肘を触っているだけでは、その原因は絶対に見つからないのです。
これが、「安静にしていれば治る」という誤った認識が生まれる理由でもあります。安静にすれば、表面の炎症は引きます。でも、原因は残ったままなので、投げ始めると、また同じことが起きる。この無限ループから抜け出すには、グラウンドでの動きから、原因を遡って探す必要があるのです。
なぜ、整形外科でも治らないことがあるのか
「でも、ちゃんとした病院に行けばいいのでは」と、思う人もいるかもしれません。
もちろん、病院での画像検査は絶対に必要です。OCDなどの骨の問題を見落とすことは許されません。
ですが、それだけでは足りません。
医師がどれだけ精密なMRIを撮り、どれだけ豊富な医学知識を持っていても、「あなたがグラウンドで、実際にどう動いているか」までは、画像には映らないからです。
下半身からの力の伝わり方。腕を上げるほんの少しの角度のズレ。投げる瞬間の心理的な不安。手内筋の安定感。これらは、どんなに高性能なMRIでも映りません。
そして厄介なことに、それを一番知っているはずの選手本人ですら、自分の感覚をうまく言葉にできない。 「なんか、投げにくい」「ここらへんが、しっくりこない」。それが精一杯です。
この、現場(グラウンド)と医療(病院)のあいだにある深い溝。ここに、多くの野球肘が治らずに取り残されているのです。
Plus ONEが「本当の原因」にたどり着く方法
では、私たちPlus ONEが実際に何をしているのか。包み隠さずお話しします。
1. エコーで「内部」を見る――特にOCDを見逃さない
Plus ONEでは、エコーを使って肘の内部を評価します。上腕骨小頭の状態を確認し、OCDの兆候がないか、靭帯の損傷がないか、炎症の度合いは何か――これを画像で把握します。
小中学生の場合、ここでOCD の超初期段階を見つけられるかどうかが、その後のキャリアを大きく左右します。
高校生以上でも、可動域に制限があるなら、その原因が「子ども時代の既往」なのか「最近の損傷」なのか、エコーで見分けられます。
もし、医師の判断が必要な所見が見つかれば、私たちの信頼する専門医にお繋ぎします。抱え込むようなことはしません。
2. 動作を見る――グラウンドに近い状態で
画像に問題がないのに痛い。あるいは、可動域が制限されているのに、まだ本格的な損傷は起こっていない――ここからが、真価の問われるところです。
Plus ONEには投球動作を再現できるスペースがあります。実際に、あなたに投げてもらう。その時の肘の位置、肩の動き、下半身の使い方を見ます。
また、自分たちの現場経験から、あなたの投げ方の動画を見せてもらうこともあります。試合中の動き、練習の動きを、何度も見返す。
3. 対話を大切にする
動作をしてもらいながら、とことん細かく聞いていきます。
「投げるときに、肘の外側が引っかかるような感じですか?」「それは、ボールを離す瞬間ですか、それとも腕を上げるときですか?」「いつから、そういう感じがしているんですか?」
こうした対話ができるかどうかが、原因特定の質を決めます。私たちが選手経験やトレーナー経験を持っているのは、このためです。選手がうまく言葉にできない感覚を、こちらが引き出し、代わりに言語化してあげることができるからです。
4. 診るのは肘ではなく、全身
痛いのは肘でも、原因は肘にないことがほとんどです。
肩甲骨の動き。肩関節の安定性。体幹の硬さ。股関節の柔軟性。足首の角度。指先の力。手のひらの柔軟性。
こうしたすべてが、投球という動作では、一本の糸のようにつながっています。私たちは、その全体を見ます。
実際に、「どこでも治らなかった肘」が変わった選手たち
ケース1|OCD の超初期を発見して、数ヶ月のノースローで復帰した小学6年生
少年野球でエースをしていたお子さんが、夏に肘が痛いと訴えてきました。親御さんは「投げすぎかな」と思い、地元の整形外科に行きました。
医師の診断は「特に問題なし。様子を見ましょう」。
ですが、なんとなく心配した親御さんが、Plus ONEに来てくれました。エコーで見たところ、上腕骨小頭に微妙な変化が見えました。――OCDの超初期段階です。痛みもほとんどなく、可動域も制限されていない。だから、医師の診断は「問題なし」だったのです。
ですが、このまま投げ続ければ、確実に進行していたはずです。
その親御さんと相談し、私たちの信頼する医師にセカンドオピニオンを取りました。結果、OCDの診断が確定。ノースロー期間を決め、その間に肘へのストレスを軽くする投球フォーム改善と、全身のバランス調整を行いました。
数ヶ月後、エコーで再評価すると、骨の変化は進行していませんでした。その後、段階的に投球を再開し、中学進学時には、ほぼ何もなかったぐらいにまで回復。今も野球を続けています。
この子は、見逃されていたら、手術の対象になっていたかもしれません。
ケース2|可動域制限が高校で顕在化した選手
中学までは、肘が完全には伸びなかったけれど、痛みもなく投げられていた選手がいました。親御さんも本人も「これが自分の肘」だと思っていた。
Plus ONEで診たところ、エコーに見える範囲では、その可動域制限は、おそらく小学生時代に内側上顆に軽い損傷があった痕跡――骨の不整として治癒していたのだろうと判断されました。実際、本人に聞くと、小学5年の時に肘が痛くなって、1ヶ月くらいノースロー にしたら痛くなくなったから、そのままにしていたということでした。
その時点で原因を深掘りしていれば――内側上顆の不整がなぜ起こったのか、投球動作のどこに問題があったのか――高校での悪化は防げたかもしれません。
高校に進学してから投球数が増え、球速も上がった。すると、途端に肘の内側が痛くなり始めた。医師の診断は「靭帯損傷」。試合に出られなくなってしまいました。
ケース3|大人の草野球で顕在化した、子ども時代の既往
中学まで野球をしていた男性がいました。その後野球から遠ざかり、社会人になってから草野球を始めました。
学生の時は野球をしていなかったので、体は「野球経験者」ではない。ですが、実は子ども時代に少年野球をしていて、肘が少し曲がりにくかった記憶があった。その時は「まあ、大丈夫だろう」と思っていたのだとか。
大人の草野球を始めて3年ほどで、肘が痛くなり始めた。整形外科に行くと、靭帯の問題があると言われた。
Plus ONEで診たところ、エコーに見える範囲では、最近の新しい損傷というより、古い損傷の痕跡が見えました。おそらく、子ども時代の内側上顆の不整が、骨として癒合して残っていて、それが大人のストレスに対して脆弱性を持っていたのだろう、と判断されました。
大人になってからの野球も、もちろん楽しいものですが、こうした「古い傷」を知らずにプレーすると、思わぬ損傷を招くことがあります。
医者の領域と治療家の領域、両方が必要
最後に、これは本当に大切なことなので、はっきり言わせてください。
私たちは、自分たちの手技や経験を過信して、医者の領域に足を踏み入れるようなことはしません。
エコーで所見が見つかれば、医師にお繋ぎします。OCDなら、専門の医師に。靭帯損傷の可能性があれば、整形外科医に。
ただし、ここで重要な警告があります。
「スポーツ整形」「スポーツ専門医」と名乗っていても、野球をちゃんと見れる医者は思ったより少ないです。
実は、医学的知識と現場への理解は、別のものなのです。野球の投球動作がどれほど複雑で、どの段階でどんな損傷が起こるのか。小中学生と高校生以上で何が変わるのか。そうした実践的な知識を持っている医者は、本当に限られています。
だから私たちは、埼玉西武ライオンズのチームドクターであり、埼玉整形外科スポーツクリニック院長の山田唯一先生と連携しています。手術が必要なケースでは、優先的にご案内が可能です。
「スポーツを謳ってるなら誰でもいい」ではなく、「野球を本当に見てくれる医者」を選ぶ。それが、あなたの肘を守る一番の近道だと、私たちは考えています。
「一生治らない」なんてことは、ありません
もし今、あなたが「この肘は一生痛いんじゃないか」と、ネットで答えを探しているのなら――どうか、その前に一度、私たちに話をさせてください。
あなたの肘が治らなかったのは、あなたのせいでも、努力不足でもありません。原因が、まだ正しく見つかっていなかっただけです。
痛い場所だけを見るのではなく、全身と、あなたのグラウンドでの動きから、本当の原因を一緒に探しましょう。
特に小中学生の時期は、その後のキャリア全体を左右する大切な時間です。見逃してはいけない問題もあります。だからこそ、専門家の目で、丁寧に診ることが大切なのです。
競技に打ち込める時間は、驚くほど短い。小学生なら、野球ができるのはあと10年かもしれません。高校生になるとほんとあと数年間だけかもしれない。その大切な時間を、根拠のない安静指示や、原因を見落とした治療で失わないために。
まずは、お気軽にご相談ください。LINEなら、今の状態をお聞きするだけでも構いません。
監修
Plus ONE鍼灸接骨院|さいたま市北区・日進
代表 堀口晃平(理学療法士・鍼灸師/日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー)
浦和学院高校野球部 専属トレーナー、プロ野球選手 個人トレーナーとして、第一線でアスリートの身体と向き合ってきました。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療効果を保証するものではありません。症状には個人差があります。強い痛みや腫れ、しびれ等がある場合は、まず医療機関を受診してください。

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